
日本のオムニチャネル広告、その次の成長フェーズへ──オープンウェブが乗り越えるべき課題とは
Magnite Team
9月 2, 2026 | 1 min read
日本の消費者は、すでにオムニチャネルでコンテンツを楽しんでいる。
リビングではコネクテッドTV(CTV)で動画を視聴し、通勤中にはニュースアプリを開き、移動中にはデジタルオーディオを聴く。そして日常のあらゆる場面でモバイルアプリを利用する。消費者にとって、ウォールドガーデンだろうが、オープンウェブであろうが、チャネルの違いを意識することはもはやない。
一方で、広告投資はその変化に追いついているだろうか。

SeenThis JapanとThe Harris Pollの調査によると、日本の消費者はデジタルメディア接触時間の約66%をオープンウェブで過ごしている一方、広告投資は約34%にとどまる。プレミアムCTV、ニュースメディア、モバイルアプリ、デジタルオーディオといったオープンウェブ上のプレミアムメディアの利用は拡大しているにもかかわらず、広告予算は依然としてウォールドガーデンへ集中しているのが現状だ。
では、このギャップはなぜ生まれるのか。
このテーマについて議論するため、Magnite Japanは電通ジャパン・インターナショナルブランズ、SmartNews、SMNとともに、オムニチャネル時代におけるオープンウェブの価値について意見を交わした。
議論を通じて浮かび上がったのは、「オープンウェブには在庫が足りない」のではなく、「価値を理解しやすく、計測しやすく、買いやすい環境をどう実現するか」という課題だった。
オープンウェブに足りないのは在庫ではなく更なる「信頼」
オープンウェブを取り巻く環境は、この10年で大きく変化した。
プレミアムCTV、信頼性の高いニュースメディア、高品質なモバイルアプリやデジタルオーディオなど、日本でもプログラマティックで活用できるプレミアムメディアは着実に広がっている。しかし、その変化が広告主の投資判断に十分反映されているとは言い難い。
電通ジャパン・インターナショナルブランズのStephen Leung氏は、その背景について次のように語る。
「最大の課題はインベントリーではなく、信頼と説明のしやすさです。オープンインターネットはこの数年で大きく進化していますが、広告主やプランナーの中には、今でも昔のイメージで評価しているケースがあります。」
ブランドセーフティの考え方も変わりつつある一方で、過度なホワイトリスト運用によって、本来リーチできるユーザーとの接点を失っているケースも少なくないという。
オープンウェブに求められているのは、新しい広告在庫ではない。プレミアムメディアが持つ価値を、広告主が安心して評価できる環境づくりだ。
「複雑だから」ではなく、「価値がまだ伝わりきっていない」
もう一つの課題として挙がったのが、プログラマティック広告に対する”複雑”というイメージだ。
SmartNewsの甲賀雄介氏は、その違いを飲食店に例えて説明した。
「ウォールドガーデンは定食のようなものです。A・B・Cから選べば、何が出てくるか分かります。一方で、プログラマティックはビュッフェのアラカルトです。目的に合わせて自由に組み合わせられることが価値なんです。」
CTV、ニュースメディア、モバイルアプリ、デジタルオーディオ、さらにはファーストパーティデータまで、自由に組み合わせられることこそがオープンウェブ最大の強みだ。
一方で、その自由度の高さが「分かりにくさ」として受け止められている現実もある。
「プログラマティックの価値を本当に理解して提案・運用できる広告主や代理店は、まだ限られていると思います。」
オープンウェブに必要なのは、さらに複雑なテクノロジーではない。
高度なテクノロジーを、よりシンプルに活用できる環境づくりなのである。
消費者は変わった。計測も変わるべきだ
消費者はチャネルごとにコンテンツを体験しているわけではない。
しかし広告効果の計測は、いまだにチャネル単位で行われることが少なくない。
Magniteの「Decoding the Connected Consumer」調査によると、日本では89%の消費者が広告付きのオープンウェブメディアを利用しており、さらに46%はストリーミング視聴中にセカンドスクリーンを利用している。動画を視聴しながら商品を検索したり、ECサイトを閲覧したりするなど、複数チャネルを横断する行動はすでに日常になっている。
こうした消費者行動に対し、Stephen氏は計測のあり方そのものを見直す必要があると指摘する。
「広告主が知りたいのは、一つのプラットフォームの成果ではありません。顧客接点全体の中で、それぞれのチャネルがビジネス成果にどう貢献したかです。」
その実現には、構造的な課題も残されている。
SMNの坂口玲奈氏は、現在の大きな壁として「計測の分断」と「最適化スピード」を挙げる。
「計測の分断と、ウォールドガーデンの最適化スピードの速さは、今でも大きな課題です。ウォールドガーデンは一つのエコシステムで完結しますが、オープンウェブでは複数のプレイヤーが連携しながら計測しなければなりません。」
Cookie規制やID環境の変化により、この課題はさらに複雑になっている。
一方で、オムニチャネルが当たり前になる時代だからこそ、チャネルごとではなく、顧客体験全体を捉える計測基盤が求められている。
CPMから「Attention」へ──広告効果の評価軸は変わり始めている
計測のあり方が変われば、広告効果を評価する指標も変わる。
これまでデジタル広告では、CPMやクリック率、コンバージョンといった効率指標が重視されてきた。しかし、消費者が複数のチャネルを横断してコンテンツを利用する現在、「広告が配信されたか」だけでは十分な評価とは言えなくなっている。
いま広告業界で注目されているのが、「Attention(アテンション)」という考え方だ。
dentsuが提唱する「Attention Economy」でも、メディア接触が分散する時代においては、インプレッションだけでは広告効果を十分に測ることはできず、「広告がどれだけ実際に見られ、ビジネス成果につながったか」を評価することが重要だと提言している。
Stephen氏も、AttentionやBrand Liftを単独のKPIとして捉えるべきではないと話す。
「AttentionやBrand Liftは、それだけで終わる指標ではありません。最終的にビジネス成果や売上とどうつながっているかまで示すことが重要です。そうしたエビデンスがあれば、広告主も新しい投資に挑戦しやすくなります。」
この考え方は、プレミアムパブリッシャーの取り組みにも表れ始めている。
甲賀氏は、SmartNewsでは利用頻度や滞在時間が高く、「ながら見」が少ないという特徴が、広告効果にもつながっていると説明した。
「SmartNewsは利用頻度や滞在時間が非常に高く、他のメディアと比べても『ながら見』されにくいという特徴があります。その結果、ブランドリフトでも高い成果が確認されています。」
Attentionを重視する流れは、DSPの最適化にも変化をもたらしている。
坂口氏は、従来のパフォーマンス指標だけではなく、「質」を考慮した最適化が今後ますます重要になると語る。
「パフォーマンスの最適化はかなり成熟しています。これからは『質』を最適化にどう組み込むかが重要になります。」
SMNでは現在、コンテキストシグナルやエンゲージメント、Brand Lift Studyなどを活用しながら、広告効果をより多面的に評価する取り組みを進めているという。
広告配信の効率だけでなく、「どのような環境で、どれだけ広告が受け止められたか」を評価する時代へ──プログラマティックの最適化も新たなフェーズに入りつつある。
日本のオープンウェブ、その次の成長へ
今回の議論を通じて共通していたのは、オムニチャネル時代の課題は一社だけで解決できるものではないということだった。
パブリッシャーは信頼できるメディア環境を提供し、代理店は広告主の課題を理解し、DSPは最適化を担い、SSPはプレミアム在庫へのアクセスと透明性を支える。それぞれが連携することで初めて、オープンウェブ全体の価値を最大化できる。
坂口氏は、その方向性を次のように表現した。
「皆さんで新しい物差しを作っていけたらいいなと思っています。」
一方で甲賀氏は、Agentic AIがプログラマティック広告の普及を後押しする可能性にも期待を寄せる。
「Agentic AIによって、プログラマティックがもっと誰でも簡単に使えるようになれば、本来プログラマティックが持っていた価値がもっと解放されると思っています。」
最後にStephen氏は、業界全体が目指すべき方向性についてこう締めくくった。
「ウォールドガーデンとオープンインターネットの対立ではなく、市場全体の成長につながっていくことを期待しています。」
日本の消費者は、すでにオムニチャネルでメディアを利用している。
次に変わるべきなのは、広告の買付や計測のあり方だ。
プレミアムメディアの価値をより分かりやすく伝え、AttentionからBrand Lift、そしてビジネス成果までを一貫して評価できる共通のフレームワークを構築できるかどうか。
それが、日本におけるオープンウェブの次の成長を左右することになるだろう。
Tags: omnichannel
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